SPECIAL TALK 特別対談

運送会社ができる
脱炭素社会の
実現に向けた取り組み

近年、物流業界では環境問題の観点から、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みの輪が広がっています。

今井運送は、繊維や機械、金属、エネルギーといった各分野で幅広いビジネスを展開する大手総合商社・伊藤忠商事さまとパートナーシップを組み、さまざまな解題解決に向けた取り組みを行なっています。

2022年5月、今井運送は温室効果ガスの排出量を大幅に削減できる「リニューアブルディーゼル燃料」を用いたトラック輸送を試験的にスタート。今回は、取り組みの内容や課題、脱炭素社会実現に向けた想いを語っていただきました。

CAST キャスト

能勢 稔彦Nose Toshihiko

伊藤忠商事株式会社

1991年に伊藤忠商事へ入社。入社以来、エネルギー関連の業務に従事し、香港やシンガポール、ジャカルタ、中国・青島といった海外を飛び回り、グローバルに活躍する。2021年4月に日本へ帰国し、中四国支社金属・エネルギー部長に就任。

今井 麻衣子Imai Maiko

今井運送株式会社

いつかは家業の力になりたいという思いから、広告代理店から今井運送に転職。父である先代の急逝により、2013年に代表取締役に就任する。女性が働きやすい環境の整備や、運送業の新しい価値をつくることに力を入れている。

01 CHAPTER 中・四国エリアで初のRD燃料を用いたトラック輸送。

CHAPTER01

中・四国エリアで
初のRD燃料を用いたトラック輸送

まずは、お二人の出会いから教えてください。

今井

もともと伊藤忠商事さんとは関係性を構築させていただいていたのですが、きっかけは「鯉藤会」ですよね?

能勢

そうですね。「鯉藤会」は、伊藤忠商事とお取引のある関係グループが集まり、情報交換をする会です。私が2021年4月に中国の青島から帰国し、広島に赴任したタイミングで今井運送さんにリニューアブルディーゼル(RD燃料)をご紹介させていただきました。

今井

日々、大量の二酸化炭素を排出している事業者として、CO2の排出量削減というのは責務だと感じておりました。何かいい方法がないかと考えていたときに能勢部長からこのお話をうかがい、ぜひ進めていきたいと思ったのが始まりです。

能勢

中・四国エリアで、最初にRD燃料を導入いただいたのが今井運送さん。まだ誰もやっていないときに、真っ先に手を挙げていただいて。そこは我々も非常に感謝しています。

今井

環境対策は私たちにとって経営課題でもありますので、さまざまな情報をいただけるのはありがたいですね。

02 CHAPTER 今ある車両を活かしたまま取り組める環境対策

CHAPTER02

今ある車両を活かしたまま取り組める環境対策

RD燃料とはどんなものでしょうか?そして、それを使うことでどんなメリットがありますか?

能勢

RD燃料は、使い終えたクッキングオイルや動物性油脂など、食べることができずに廃棄せざるを得ない油脂を再利用して作られたものになります。輸送用トラックや船舶などで、軽油の代替として使える燃料です。従来の石油由来の軽油と比べ、温室効果ガスの排出量を大幅に削減できます。

今井

環境対策に力を入れようとすると、専用のトラックを用意したり設備を増設したりと、大きな投資が必要になります。その点、RD燃料は既存のトラックに直接給油できるため、車両の改造が必要ないというのが良いですよね。

能勢

おっしゃる通り、そこが一番の強みです。環境に対する意識が高いオーナーさんや社長さんは、いち早くRD燃料を導入してくださっていますね。

今井

大きな設備投資がほぼ必要なく、すぐに環境対策に取り組めるものは、現時点でRD燃料しかないと感じています。

能勢

天然ガスや水素、EVといった選択肢も今後出てくるかもしれませんが、一気に変えるというのはなかなか難しいでしょう。今ある車両を活用してもらえるというのが、この取り組みのキーになります。

03 CHAPTER RD燃料と軽油との使用感の違いや課題

CHAPTER03

RD燃料と軽油との
使用感の違いや課題

実際にRD燃料を使ったトラック輸送を始めていかがですか?

今井

現在、弊社では2トントラック1台をRD燃料で走らせています。2022年5月下旬からスタートし、半年ほど経ちました。特に大きな変化もないですし、懸念していたトラックの不具合なども起きていません。

能勢

RD燃料は日本では新しいものですが、ヨーロッパでは何十年も前から使われている燃料ですからね。今井運送さんには、比較するために同型の車両にRD燃料と軽油を積んで走ってもらっているのですが、燃費などはどうですか?

今井

まだ単月しか調べられていませんが、RD燃料を使った方がリッター1kmくらい良くなっていて、そこは好事例だと思っています。ただ、テクニックの問題もあるかもしれません(笑)RD燃料を積んでいるトラックは女性ドライバーが乗っているので、運転が細かいのかなとも思いますが、結果をみると燃費は上がって良くなっているのが実情です。

能勢

貴重なデータをありがとうございます。あと、RD燃料の良さは、すごくクリーンなんです。ディーゼル車は排出ガスのキャタライザーが汚れると、自動でエンジンが止まってしまうことがあるんですよね。

今井

そうですね。輸送途中で突然トラックが止まると、代替トラックを手配したり、止まった車両を移動させたりする必要があり、膨大な費用がかかってしまいます。

能勢

クリーンなRD燃料を使えば、ひょっとするとそういった車両トラブルも削減できるのではないかなと。ただ、まだ日本でそうしたデータの蓄積ができていないので、今井運送さんのようなお客さまにご協力いただき、蓄積していこうとしているところです。

今井

車検時やディーラーではないとそういったデータが出せないという課題もありますが、データ化できるものはしていきたいと思います。

能勢

それから、RD燃料は新しい燃料ということで、さまざまな課題もありますよね。我々は、RD燃料を海外から輸入してきていますので、軽油と比べると価格が高い。それが少しネックですね。

今井

軽油代替燃料ということで、法規制も厳しいですね。危険物に該当し、購入できる量や取り扱いには苦戦を強いられている部分もあります。

能勢

現状では、RD燃料を給油できる拠点が中・四国エリアにはないですから、一度の給油で行って帰って来られる距離で調整していただいている状態です。まだまだ課題が山積みですね。

04 CHAPTER 地球に優しい燃料を使った運輸に付加価値を

CHAPTER04

地球に優しい燃料を使った運輸に付加価値を

課題を解決するためにどんなことに取り組んでいますか?

能勢

まずはRD燃料を広めることです。現状、環境問題に対する意識の高い企業さんが使ってくださっていますが、これが全国的に広がっていかないとコストを下げるのは難しいでしょう。我々はとにかくユーザーを増やそうと頑張っているところです。

今井

私たちは、RD燃料を使ったトラックの価値というのをどんどん打ち出していき、少し価格が高くても環境に優しい車両を使っていただくというところを営業展開していく必要性があると思っています。

能勢

お客さまの意識が変わらないと、なかなか広がっていかないんですよね。例えば、温室効果ガスの排出が少ないトラックで物を運ぶということに対して価値を見出していただく。そしてエンドユーザーの方々が、高くお金を払ってでも使いたいと思ってもらうことが大切ですね。

今井

まだまだご理解いただけていないというのが現状ですので、次の展開として、伊藤忠商事さんにもご協力いただきながら取り組んでいきたいです。

05 CHAPTER 脱炭素社会を実現するために

CHAPTER05

脱炭素社会の実現へ向けた今後の展望

お二人が思い描く理想の未来はどんなものですか?

今井

これはRD燃料を普及させることですかね。

能勢

そうですね。今井運送さんみたいなお客さまが増えると、広島県内にRD燃料専用の給油所を作れるかもしれません。まずは、そこを目指していきたいです。

今井

現在は、ドラム缶から給油ノズルを使ってトラックに給油しています。あらゆるところに給油所ができれば、RD燃料で走らせる車両をもっと増やすこともできるでしょう。クリーンディーゼルを走らせるのが当たり前の世の中になると良いですね。

能勢

今後、水素やアンモニア、EVといったRD燃料に変わるものも出てくるでしょう。しかし、直近20年くらいの間でトラック業界のCO2排出量を削減したい、ゼロにしたいという目標を達成するには、まずはRD燃料を使って減らしていくのが最適だと考えます。今井運送さんのような企業さまや賛同いただけるパートナーを増やし、地球環境を守っていきたいです。

今井

そうですね。私たちもRD燃料の魅力や付加価値をしっかりアピールしながら、伊藤忠商事さんと一緒に環境問題に取り組んでいきたいです。